「この先、車窓から滝が見えます」
車内放送が流れ、列車がゆっくりと速度を落としました。
「滝」と聞いて思い浮かべたのは、勢いよく流れ落ちる白い水。水しぶきの上がる滝壺。修行僧が打たれていても不思議ではない、あの滝です。
しかも、乗る前に調べたところでは、高さは約25メートル。ビルにするとおよそ8階分です。
編集部もカメラを構え、山側の窓に注目しました。
列車はさらに速度を落とします。
来るぞ、来るぞ。
窓の外に現れたのは、暗い岩肌。そして、その岩肌を細く流れる一筋の水でした。
「……え、これ?」
列車が徐行してまで見せてくれたのは……たぶん西日本一控えめな滝でした。(編集部推測)

滝壺も水しぶきも、どこへやら
この数週間は雨が少なく、滝の水量もかなり控えめでした。
「今日は水が少ないです」
車内放送の声が、編集部にはどこか悲しげに聞こえます。
滝の音のかわりに聞こえてきたのは、その放送だけ。
放送の声が、滝の音よりもしっかりと車内に響いていました。
窓の外をもう一度よく見ると、確かに水は流れています。
ただ、頭の中で想像していた滝とは、少し違います。
滝壺も、水しぶきも、想像の中だけ。
この滝で滝行をしたら、悟りを開くより先に、肩こりが少しほぐれそうです。
清流の滝は、沿線の雑木を伐採したことで姿を現した滝です。
水の量は、季節やその日の天気によって大きく変わり、雨の少ない時期には、濡れた岩肌のように見えることもあります。
写真に残ったのは、ほぼ岩肌
せっかく列車が速度を落としてくれているので、写真に残そうとスマホを構えました。
ところが、水の流れが細いうえに、滝は木々や岩肌に囲まれています。
「これかな?」と目を凝らしているうちに、列車は滝の前を通過。
スマホに残っていたのは、滝というより、ほぼ岩肌の写真でした。
うまく撮ろうと画面ばかり見ていると、控えめな滝をそのまま見逃してしまいます。水量の少ない日は、写真よりも先に、自分の目で水の流れる滝を確かめたほうがよさそうです。

滝チャンスは、あと2回
落ち込むのは、まだ早い。
錦川清流線の観光徐行の区間では、清流の滝のほかにも、車窓から滝が見えます。岩国から錦町へ向かう列車なら、滝チャンスは全部で3回です。
- 1回目 清流の滝(北河内駅〜椋野駅)
- 2回目 かじかの滝(椋野駅〜南桑駅)
- 3回目 錦川みはらしの滝(南桑駅〜根笠駅)
2回目は、かじかの滝。
かじかの滝がある南桑駅周辺は、カジカガエルの生息地として国の天然記念物に地域指定されています。
川を見るべきか、滝を見るべきか。それとも、カジカガエルを探すべきか。
とはいえ、小さなカジカガエルを走る列車から見つけるには、視力3.0でも難しそうです。
目を細めて山側と川側の窓を見ているうちに、列車はゆっくりと、今回も控えめな滝の前を通り過ぎていきました。
3回目は、錦川みはらしの滝。もう一度、山側の窓に張りつきます。
暗い崖。岩肌。来るぞ、来るぞ。
「……これ、かな?」
3回とも、だいたい同じ展開でした。


気づけば、反対側はずっと清流
3回目の滝を見送ったあと、ふと反対側の窓に目をやりました。
そこに広がっていたのは、澄みきった錦川の流れ。
日の光を受けて、川底の石まで見えるほどの清流です。
清流、清流……。
そういえば、1回目のときも、2回目のときも、反対側にはこの景色が流れていた気がします。
「あれ? ゆっくり走ってくれているのは、こっちの景色のためでは?」
滝を探して山側ばかり見ていたあいだ、反対側では、ずっときれいな清流が流れていたのです。
列車がゆっくり走ってくれても、山側の滝と川側の清流、両方を見るには、目がもう2つほしくなります。いや・・むしろ清流を案内してほしい・・・。

雨の翌日に乗っても、やっぱり控えめな滝だった
後日、雨の翌日にもう一度乗ってみました。
同じ場所で列車が速度を落とし、窓の外を見ると、流れていました。水が。
それでも編集部のイメージする滝とは、程遠い控えめです。
「これでやっと湧き水くらいだよね。」と、つっこみたくなります。

たぶん西日本一控えめな滝の楽しみ方
せっかくなら、控えめな滝をとことん控えめに楽しみたい。編集部おすすめのコツです。
- 晴れの日が続いたあとをねらう 水がさらに少なくなり、控えめさにいっそう磨きがかかります。運がよければ、少し悲しげな車内放送も聞けます。
- 案内が流れたら、すぐに山側の窓へ 控えめなので、見えるのはほんの一瞬に感じます。
- 期待は小さめに ビル8階分の滝を思い浮かべて探していると、目の前を通り過ぎていきます。
- シャッターより先に、目に焼きつける 撮れた写真は、たいてい暗い岩肌か草です。
- 2回目は、カジカガエルとの二択 川を見るか、滝を見るか。迷っているうちに、だいたい通り過ぎます。残念ながら小さなカエルは視力3.0くらいじゃないと見えません。
- 反対側の清流も同時にみる 本当の見どころは、こちらかもしれません。
- 滝らしい滝が見たい人は、雨の翌日に それでも、期待をみごとに裏切ってくれます。
控えめだから、記憶に残る
控えめな滝にも、ちゃんと見せ場をつくって、速度を落としてゆっくり見せてくれる。そんなところに、錦川清流線のやさしさを感じます。
でも編集部は正直に声を大にして言っておきます。
「滝の放送が入ったら、清流側を見よ!」(笑)
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