朝ドラ『ブラッサム』の主人公のモデル、宇野千代さん。その生家が、錦川清流線の川西駅から歩いて行ける場所にあります。
話題の人が育った家を見てみたくて、編集部も行ってきました。恐れ多いことに、宇野千代さんの本を開くのはこれからです。
川西駅から歩いて約8分
岩国駅から錦川清流線に乗ると、川西駅までは2駅・約10分です。
駅を出ると、幹線道路沿いにスーパーの丸久と中古車屋さんが並んでいます。いつもの岩国の暮らしの風景です。
そこから小道に入り、住宅街を進むと、空気が急に変わります。旧山陽道沿いに、明治の家が静かに建っていました。駅から編集部の足で約8分です。
門には今も「宇野千代」の表札が掛かっています。

この家で過ごした少女時代
宇野千代さんは1897年(明治30年)、今の岩国市川西に生まれました。この家は、子どものころの千代さんが父、継母、幼い弟や妹と暮らした家です。
千代さんは2歳になる前に実の母を亡くします。父はまもなく、17歳のリュウさんを後妻に迎えました。父は奔放で、子どもにはとても厳しい人でした。14歳のとき、千代さんは父の命令で従兄のもとへ嫁ぎ、10日ほどで実家に戻っています。
そんな毎日を支えたのが、継母のリュウさんです。リュウさんは千代さんをわが子と同じように愛しました。千代さんも幼い弟や妹の面倒をよく見て、「小さなお母さん」の役目を果たしたそうです。
小学校の代用教員をしていたころ、千代さんは同僚の先生と恋に落ちます。恋愛に厳しい大正の町で二人は噂になり、千代さんは教員の職を失いました。18歳のとき、千代さんは「逃げるようにして」岩国を離れます。

恋に仕事に、ドラマのような人生
岩国を出てからの人生は、まさにドラマです。
1921年(大正10年)、千代さんは懸賞小説で一等に選ばれ、作家としてデビューします。その後、名だたる芸術家たちと恋をして、結婚と別れも経験しました。作家の尾崎士郎さん、画家の東郷青児さん、作家の北原武夫さんも、そのお相手です。
仕事でも、次々と新しいことに挑みました。1936年に日本初の女性ファッション誌『スタイル』を創刊し、着物のデザインも手がけます。小説『おはん』で野間文芸賞を受賞し、自伝的エッセイ『生きて行く私』はベストセラーになりました。98歳まで生き、エッセイ集には『私何だか死なないような気がするんですよ』という題をつけています。
11軒の家を建てた人が、直した家
千代さんは結婚や別れのたびに家を建て、その数は11軒にのぼったそうです。家づくりの話は、エッセイ『私が建てた家』にも書かれています。
その千代さんが、長い時を経て向き合ったのが生まれた家でした。家が朽ちかけていると聞いて修復を決め、1974年(昭和49年)、ほぼ昔のままの姿によみがえらせました。
どの部屋にも、庭の見える机
家に上がって最初に気づいたのは、どの部屋の窓からも庭が見えることでした。そして、どの部屋にも机が置いてあります。
修復のあと、千代さんは岩国に帰ると、この家で原稿を書いていたそうです。座敷には、小説『水西書院の娘』などを書いた文机が残っています。
庭を眺めながら書く。そのための家だったのでしょう。晩年の千代さんは、帰郷してこの家で過ごす時間を楽しみにしていたそうです。

庭は、宇野千代さんの作品
今の庭は、修復のあとに千代さん自身の意向でつくられたものです。約50本のもみじと、ふかふかの苔の築山があります。築山の上には、千代さんが骨董屋で見つけた仏頭が置かれています。庭の奥の小道には瓦が縦に埋め込まれていて、子どものころに歩いた道の記憶がもとになっているそうです。
編集部が感じた「美的センスのある家」という印象には、理由がありました。ファッション誌をつくり、着物をデザインした人の目で、家も庭も整えられています。
春には、小説『薄墨の桜』ゆかりの桜も咲きます。館内では、千代さんがデザインしたハンカチなどの小物も買えます。


秋は紅葉ライトアップも
もみじの庭は、秋の夜にライトアップされます。2026年は11月20〜23日と27〜29日で、時間は17:30〜19:30(最終入館19:15)です。帰りの列車の時刻も、あわせて確かめておくと安心です。

編集部はこう回りました
編集部は錦帯橋から歩いて約20分で生家へ向かいました。そのあと川西駅から錦川清流線に乗り、終点の錦町まで清流沿いの旅を続けました。
時間に余裕があれば、生家から歩いて5分の教蓮寺へ。千代さんと父母が眠るお寺です。
次の列車まで時間がある場合は、生家から歩いて10分ほどのレトロ自販機もおすすめです。
宇野千代さんのレシピをもとにしたランチが食べたいなら、岩国城ロープウエーのたもとにある錦帯橋カフェわたぼうしへ。生家とあわせて訪ねると、千代さんをもっと身近に感じられます。
波乱の人生と、静かな庭
本より先に生家から入った編集部ですが、帰りの列車ではすっかり千代さんのことが気になっていました。
訪ねたときは、きれいな庭のある穏やかな家だと思っていました。この静かな家に、これほど波乱の人生が詰まっているとは。
恋に仕事に走り続けた人が、晩年に手をかけたのがこの庭です。その庭を眺めていると、千代さんの人生の続きが知りたくなります。
次は一冊読んでから、また来ます。

宇野千代生家の基本情報
| 場所 | 山口県岩国市川西2丁目9-35 |
| 最寄り駅 | 錦川清流線・JR岩徳線 川西駅 |
| 駅から | 徒歩約8分 |
| 休館日 | 火曜日、お盆(8月14〜16日)、年末年始 |
| 営業時間 | 10:00〜16:00 |
| 料金 | 高校生以上310円、小・中学生100円 |
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